ムカデ競走5月の輝く太陽の下で繰り広げられた、佼成女子の体育祭「スポーツフェスタ(SF)」。
この行事を観戦していた教育ライターの吉本氏より、文章を寄稿していただきましたのでここに掲載いたします。
(佼成学園女子中学高等学校 広報室)

― 転んだ者を笑ってはいけない 彼は歩こうとしたのだ ― (作者不詳)

「がんばれ!」。終盤の競技のさなか、審査員席で冷静に競技を見つめていた一人の男性教師は、椅子を蹴って飛び出した。最下位になってしまったけれど、一生懸命に前へ前へと進んでいる、白組の生徒を応援するためだ。
それと同時に学校中の、白組だけではなく、敵対する紅組や、教師、保護者、来賓までもが一斉に、彼女たちにあらんかぎりの声援を送り続けた。学校のみんなが一つにまとまった瞬間であった。

ムカデ競走
ムカデ競走

高校時代の最後の競技、3年生の「ムカデ競争」。白組応援団長が率いるこのクラスは、惜しくもスタートでつまずいてしまった。その間にも、他のクラスはとっくにゴールしようとしている。絶望的な状況だ。
きっとクラスの何人かは、「どうせ最下位なんだから、もうやめたい」と思ったかも知れない。一周200メートルのコースは、彼女たちにとってフルマラソンよりも長く果てしない道に感じたことだろう。
しかし自分だけがここでやめるわけにはいかない。クラスのみんなが、まだ前に進もうとしているのだ。

彼女たちがここに至るまでの道のりは、決して平坦ではなかった。クラスの個性豊かなキャラクターの間では、日々様々な葛藤(かっとう)が繰り広げられた。
ところが練習を重ねるたびに、みんなの気持ちが段々と一つにまとまる一体感が生まれる。「これなら勝てるかも!」クラス全員がそう思った。
だが本番は違っていた。緊張のために焦りが生じ、足が合わなくなってしまった。団体競技である「ムカデ競争」は、スタートが一番難しい。そのスタートにつまずいてしまっただけで、勝負は決まってしまうのだ。

それでも彼女たちは前に進んだ。泣きたくなる気持ちをこらえて、全員で、一歩一歩進んでゆく。全校の声援を浴びながら。
応援していた生徒たちは知っている。今、目の前でもがいている高校3年生たちは、朝早く、あるいは放課後に集まり、泣きながら練習していたことを。だから自分のことのように熱く応援した。
見ていた大人たちは知っている。これが青春の一コマであることを。かつて自分たちも経験した、しかしもう戻らない、あの輝かしい日々のことを。だから自分のことのように熱く応援した。
今回のスポーツフェスタで最も感動的なシーンが、その時生まれていた。

応援する生徒たち
ムカデ競走

負けたくやしさと疲労のため、彼女たちの耳に声援は聞こえていなかったかも知れない。全校が一つになって彼女たちを応援し、ゴールと同時に割れんばかりの拍手が起こったことを。そして見ていた全ての人に感動を与えたことを、彼女たちは知らないでいるのだろう。
だから私はこのことを彼女たちに伝えるために、そしてこの場に居合わせて、感動を分かち合った全ての人たちのために、この日のことを記録する。
大会の冒頭で、山本校長がこのように述べていた。「私の娘も10年以上前、体育祭でムカデ競走に出場しました。ところが当日は転倒してしまい、残念ながら勝つことはできませんでした。しかし10年以上過ぎた今、その時の様子や、友だちの表情を活き活きとした笑顔で私に話してくれます。ころんで負けてしまったけど、一生懸命がんばったあの日の思い出は、10年以上経過しても色あせることなく、心の奥深く刻み込まれ、今の私の娘を支えているのです」

これからの人生で、きっと彼女たちは、「もうダメだ」「もうやめたい」とくじけそうになることがあるだろう。だが、そんな時に思い出すだろう。今日のこの出来事を。友だちとひとつになって、あきらめず、前に前に進もうとしたあの5月の涙のことを。

♪BGM:Colour Field(青春はいちどだけ)/Flyer.To Team(アルバム「Tribute To Flipper’s Guitar – Volume 2」より)

(文責・写真: 教育ライター 吉本真一)