弁論大会《71年前、明るく、雲一つない朝、空から死が降ってきて、そして世界は変わった。》

これは、2016年5月27日にオバマ前大統領が広島でおこなったスピーチの冒頭です。私たちが生きる世界は、広島と長崎での惨禍によって、どのように変わったのでしょうか。

高校2年生はまもなく広島へ修学旅行に出かけます。特進文理コースの生徒達は1ヶ月以上にわたり、現代文の授業で戦争について考える学習をしました。その様子をご紹介します。

1.ドキュメンタリーの読解
まず、NHKスペシャル「決断なき原爆投下 ~米大統領 71年目の真実~」(2016年8月6日放送)を見ました。アメリカでは一般的に、戦争を早期に終結させて数百万の米兵の命を救うためにトルーマン大統領が原爆投下を決断したと考えられています。しかしその定説が今、米国の歴史家たちによって見直されようとしています。この番組は、軍や政府関係者の日記、肉声のインタビューテープなどを丹念に読み解くことで、原爆投下の知られざる真実を明らかにしようとしています。原爆投下に至るまでの過程を知るだけでなく、情報の恣意的な取捨選択、非主体的な意思決定、後付けの正当化の言説など、現地での入念な調査取材によって様々な問題点を浮き彫りにするドキュメンタリーの手法を学びました。

2.スピーチの読解
ドキュメンタリーを見た後、トルーマン大統領による原爆投下直後の声明文とオバマ大統領による広島でのスピーチ、それぞれの全文対訳を比較分析しました。オバマスピーチに関しては、当時のマスメディアでは謝罪の有無などが論点になりましたが、全文を読み通すことによって、実は私たちの文明観や科学観を問い直すものであることがわかります。そのことは、「広島と長崎の空に立ち上ったキノコ雲のイメージほど、人類の根本的矛盾を鋭く想起させるものはない。」という一文とそれに続く言葉から読み解くことができます。両大統領のスピーチの比較を通じて、原爆というものが現代文明をどのように変えたのか、一緒に考えました。また、スピーチの内容だけでなく構成にも着目し、この後の弁論大会に向けて原稿を作成するヒントを得ました。

3.評論の読解
映像・音声媒体に続いて、活字媒体からのインプットも行いました。無数にある戦争関連の評論の中から、岡真理『棗椰子の木陰で』(青土社,2006)を授業で読解しました。戦争について考える際、私たちはどうしても抽象的になりがちです。世界の紛争を報じるニュース映像も、「戦争の惨禍」を伝えるステレオタイプ化された記号となっているのではないか。そうした時に、いったい文学に何ができるのか。そんな問題提起を示して考察を進める評論です。また、生徒たちには、15冊の戦争関連本を紹介した「戦争・平和に関する読書案内」を配布しました。どのような切り口から戦争について考察するか、様々なヒントを得て、自らの弁論作成に取りかかってもらうことが狙いです。
戦争・平和に関する読書案内(PDF)

弁論大会4.弁論大会
弁論大会は昨年同様、クラスごとに予選・本選の二回実施しました。全員が800字程度の原稿を作り、3分を目安にスピーチを行います。ルーブリックという独自の評価表をもとにメンバー間で相互評価しました。「問題提起が厳密に設定されており、序論部分でスピーチに期待感が持てるか」「引用部分が明瞭で、自説を述べるうえで必然性があり、説得力を増す効果が感じられるか」など、8項目を4段階で評価し、総合評価点の最も高い生徒がグループ代表に選出されます。本選ではグループ代表が登壇し、クラス全員の前でスピーチします。生徒全員の評価をもとに、各クラスの最優秀者を決めました。

A組最優秀賞の徳久さんのテーマは「食から見た戦争」です。戦時下の兵士達の食生活から、国や国民の性格が垣間見えるのではないかという興味深い切り口です。第二次大戦中のドイツ軍とアメリカ軍の携帯食を比較し、両国の国民性や経済的事情がその携帯食に反映していることを明らかにしました。大会後の感想では「弁論大会では、みなが集中してお互いの発表を聞き、たくさんの質問を投げかけるので、発信と受信の両方を真剣にやりとりできて楽しい」と語ってくれました。

B組最優秀賞の土屋さんのテーマは「国の勢力と兵士の関係性」です。太平洋戦争における日米の勝敗を決めた要因の一つとして、自国兵士の扱い方の差があるのではないかという弁論です。2017年12月に出版されたばかりの吉田裕『日本軍兵士 ―アジア・太平洋戦争の現実』(中公新書)をもとに、飢餓・伝染病・自殺によって日本軍が内部から崩れていった過程を明らかにし、敵も味方も傷つける戦争の外交手段とすることの危険性を訴えました。

C組最優秀賞の長嶋さんのテーマは「近代日本の徴兵制の問題点」です。十分な訓練を受けずに戦地に赴き、命を奪われた若者がいかに多かったか。日米の兵士育成法を比較し、日本政府の非計画的な徴兵の問題点を明らかにしました。そして、国民の声が政府まで届きにくかった戦前の状況を省み、選挙での投票行動やSNSでの意見発信などを通じて、政府が判断を誤らないよう私達国民が考えて行動することの重要性を訴えました。

いかがでしたでしょうか。今、日本の教育界では「主体的・対話的で深い学び」が志向されています。しかし、どのようにこの学びを実現するか、その具体策や教材はまだ十分に開発されていません。佼成女子の国語科では、現代社会を生きるうえで考えていくべきテーマを厳選して、本質から外れることなく、生徒たちを主体的・対話的で深い学びへと動機づける取り組みを続けてまいります。

(文責:国語科 秋田)