皆さん、こんにちは。学校長の宍戸崇哲(ししどたかのり)です。毎月1回、校長としての私の感じたことや考えを「宍戸校長の【Back to Basics】」と題して、本校HPで発信していきます。学校や生徒のことを中心に社会の出来事なども交えて、皆さんと何かを共有できればと思います。どうぞ宜しくお願い申し上げます。今回は「英国エリザベス女王陛下逝去と視野を拡げること」と題してお届けいたします。
2022年9月8日、イギリスのエリザベス女王陛下が70年の在位期間を経て96歳で死去された。国内はもとより世界中の市民が追悼のためバッキンガム宮殿を訪れている様子が報道された。英国市民の家庭では女王陛下の成されたことやお人柄を偲び、一時代の終わりを自分の歴史と重ね合わせて、思いを共有したに違いない。
私は1994年から1年間、英国で暮らした。その後仕事で何度も渡英して、その度に英国の文化や歴史、習慣、人々の考え方などに接した。女王や英国王室に関しては国民それぞれの考えがあると思うが、概して人々の関心は高く、女王を母や祖母のように捉えていた人も少なくないと思う。英国を訪れた人ならご存知かもしれないが、女王を含め、王室の面々の写真を使用したお土産品がある。風刺の効いたジョークと捉える見方もあるが、コメディドラマや映画にも王室の方々を取り上げるシーンがあり、市民の王室に対する関心の表れと考えることもできる。中には女王様ご自身が出演された作品もある。
訃報が報じられるとロンドンの中心地、ピカデリーサーカスに遺影が掲げられていた。
オーストラリア・シドニーのオペラハウスにもプロジェクションマッピングで遺影が映し出された。国葬の模様はテレビの前で家族と共に特別な思いで見守った。英国の美しい自然や歴史・文化、現地の友人たちの話が懐かしく思い出された。
2学期に学校長講話で、私なりのwell-beingにつながる物事の考え方を生徒たちに話している。視野狭い、硬直したものの見方はwell-beingを遠ざける。「木を見て森を見ず」の状況では道に迷い、鬱蒼と茂る同じような景色が果てしなく続いて疲労が溜まるばかり。何かの方法で森の全体像を俯瞰的に見ると、方角や出口を見出す手がかりを掴むきっかけになるかもしれない。多角的にものを見る、視野を拡大していくとよい考えが浮かぶかもしれない。と話した。先日高校2年生対象の講話の最後に生徒たちから質問があった。「視野を拡げるにはどうしたら良いですか。」という問いに、私は「様々な知識を獲得するのも当然だが、同じ問題を他者と話して共有すること。多様な考えの存在を理解すること。そして他国の人々と考えを交流させること。今は世界で共通の課題が多々あるから、同じ課題について世界の人々がどんな考えを持っているか知ること」と答えた。
私は日本の子供たちが、今よりももっと、世界の国々の多様な文化や国民性、またそこから生まれる多くの考えに触れてほしいと思う。できれば他国で一定期間ホームステイすることはかけがえのない経験となるが、短期間であっても、旅行であっても海外に出て、文化や人の考えを肌で感じて、他国から自国を見ることは大切なことである。
日本人の若い世代が内向きで海外に出ない人が多いと言われ久しいが、この傾向は、長い歴史と相まって日本の独自の習慣や文化を創造することに大きな貢献をしている。だからこそ、海外の人々は日本の独特な自然・文化・習慣に魅了されるのであろう。しかし世界は多様である。本校の修学旅行や語学研修、ロンドン大学研修などが実施されてきた、日本と似て非なる国、イギリス。今回の女王陛下逝去の事柄をきっかけに、我が国のものと比較してみてはどうだろうか。例えば葬儀の方法や形式、人々の反応も大きく異なっていた。お互いの「違い」に敬意を持って自国の文化・習慣を顧みることは、自らの視野を拡げることにつながるであろう。
また、現在は国内にいながらもオンラインで他国の方々と交流することができる。方法、技術、ツールを最大限利用して、他者と互いの考えを交流しあい、共有することが自らの新たな考えを創出することに役立つと思う。
子供たちには自分の興味関心に合わせた情報収集だけでなく、日本や世界の出来事を広く知ってもらうために、私たち教育現場からの情報提供や共有、家庭で社会問題を雑談する、メディアが国際的な出来事を特集してより報道していくことが必要なのではないかと思う。こうしたことが子供たちの探究活動を刺激して、大学での研究、また社会人としての様々な力のもととなっていくのだと思う。