皆さん、こんにちは。校長の宍戸崇哲(ししどたかのり)です。毎月1回、校長としての私の感じたことや考えを「宍戸校長の【Back to Basics】」と題して、本校HPで発信していきます。学校や生徒のことを中心に社会の出来事なども交えて、皆さんと何かを共有できればと思います。どうぞ宜しくお願い申し上げます。
第16回は、「『今までに経験したことのない』ものへの挑戦」と題してお届けいたします。
世界各地は異常気象により、多くの災害に見舞われています。日本も「今までに経験したことのない」や「命にかかわるような」などの言葉に形容された気象情報が当然のことのように聞かれます。40度を超える酷暑や8月23日の台風19号、20号のダブル台風が日本列島に大きな被害をもたらしました。ゲリラ豪雨では、本校から数キロしか離れていない井の頭線久我山駅が浸水により大きな被害を受けました。気象予報は被害を最小限に食い止め、人々に備えを促すために世界の最先端技術が使われ、日々進化を続けています。一方、台風の進路やゲリラ豪雨の発生の地域限定などで、予報が二転三転するなど、予報そのものに困難さが現れてきています。つまり、今までの経験値では計り知れない、予測できないような人知を超えた自然環境であるということです。しかしながらこれは気象予報だけの課題ではありません。
子供たちが社会を支える21世紀中盤はVUCAの時代と言われています。
Volatility 変動性、不安定
Uncertainty 不確実
Complexity 複雑性
Ambiguity あいまいさ
国際社会やビジネスの中で、このような言葉で表されるような事態が課題として持ち上がり、様々な課題解決を困難にしていく可能性があります。「今までに経験したことがないような」という言葉が政治や経済、私たちの身の回りの生活で使われることが予想されます。「シンギュラリティ」「少子高齢化」「環境破壊」「差別」「SNSによるいじめやフェイクニュース拡散」「都市の空き家増加」などが現在以上にパワーアップして、これまでの経験をもとに解決することが難しくなるのです。
それでは、このような事態に対処するには、どうしたらよいのでしょうか。
その方法は多種多様で絶対に正解と呼べるものはないのかもしれません。しかし、人間力を基盤として、それぞれが他者と協働し、目の前にある難問題に立ち向かうことは絶対に必要です。他者と協働するため共感性を育むこと、社会で必要なコミュニケーション能力を養成すること、基礎的な知識、いわば教科書レベルの学習事項を徹底して学ぶこと、日本の文化、歴史、宗教を含めた国際的な教養を広い視野で身につけることは、対処の基礎を確立するうえで必要不可欠なことです。
そして、これからは、その基礎をもとに、人それぞれが新しい考え、新しいものを生み出すことではないでしょうか。経験が通用しないのなら、知識として経験を活用して、新たな方策を講じるしかないのです。既存の常識や価値観を打ち破り、不可能を可能にする創造性が必要だと考えます。
スマートフォンを例に出しましょう。私は2007年初期型iPhoneが発売されるとすぐに使い始めました。これは現在のスマートフォンの原型で今からほんの11年前にリリースされたのです。革命的な発明で加速度的に世界の仕組みを変えたといっても過言ではないでしょう。電話に始まり、PC、テレビ、オーディオ機器、一眼レフカメラがこの小さなボデイにすべて格納されているのです。まるで魔法の箱です。
スマートフォンは世界中の人々を一瞬でつなぎ、災害情報はどこにいても知ることができるようになりました。人間の斬新な発想が多くの分野で「今までに経験したことのない」ものを生み出し、ほんの10年くらいのスパンで劇的に進化し続けているのです。
子どもたちには、しっかりと確かな人間力を中心にもち、深い教養を身につけたうえで、人々のために新しい考えやものを創造していってほしいと思います。
新学習指導要領では「探求学習」がクローズアップされています。学校は子どもたちが手にいれた知識を駆使しながら、物事を深く考え探求して、新たなものを次々と創造していく手伝いをしていかなければならないと考えます。
(佼成学園女子中学高等学校 校長 宍戸 崇哲)