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2学期終業式のことば

 皆さんこんにちは。学校長の宍戸崇哲(ししどたかのり)です。毎月1回、校長としての私の感じたことや考えを「宍戸校長の【Back to Basics】」と題して、本校HPで発信していきます。学校や生徒のことを中心に社会の出来事なども交えて、皆さんと何かを共有できればと思います。どうぞ宜しくお願い申し上げます。今回は「2学期終業式のことば」と題してお届けいたします。

2020年 私たちが生涯忘れることのできない年が終ろうとしています。今なお、感染者数は増加し続け、世界は経験したことのない大きな課題と直面しています。今年は皆さんも、私たち教職員も、各教育活動が思い通りに進まない悔しさや悲しみ、多くの不便さや不自由さを余儀なくされました。この状況はまだしばらく続く様相です。しかし、本校では、皆さんの努力や創意工夫によって、形は変えても、心のこもったできる限りの教育活動を行ってきています。

 昨日バスケットボール部が東京都ベスト4、ウィンターカップ2020全国大会に初出場し、初戦勝利して2回戦まで進みました。本当に素晴らしいです。永きにわたり、全国大会出場を目指して、ひたむきに努力してきました。技術力を磨くことは当然ですが、先の見えない中での練習の中では、強靭なメンタルを磨きながら、技術力やチーム力を強め、同時に感染対策にも配慮するという過酷なものだったに違いありません。選手と監督・コーチの揺るぎない信頼関係がこの輝かしい結果を生んだのだと考えます。しかし、これはバスケ部だけではありません。今年、本校のすべての教育活動で起こったものの象徴であって、他でもこのようなことがあったはずです。本校の誰もがバスケ部の偉業を称えること、それは間違いなく自分を称えることであろうと思います。

 

 また、KGGS16期生がN Zでの1年留学を終えて、12月4日に無事に帰国しました。通常、1年留学でも多くの苦労があるのですが、今年はコロナ禍で、言葉では言い表せないほどの不安や心配、困難があったはずです。しかしそれを見事に乗り越え留学を成功させました。もちろん、今回の留学は過酷で、普通の留学の方が良いというのは容易なことですが、この世界情勢下で日本の高校生が海外で1年生活していた経験が、彼女たちの人間力をどれだけ高かめたことか。その経験を聞きたい、何かを学びたいと思う人は、社会にたくさんいるでしょう。私たちが今経験している困難は、大変稀有なことであり、今後の私たちの生きる世界にも大きなメリットをもたらすものだと思います。

 

 今年を振り返ると、コロナと関連する事柄しかないようですが、人、社会、国家といった単位で、それぞれの特徴や見過ごされていた課題が次々と浮き彫りになったように思います。例えば、日本は海外と比較して、社会生活の中でのIT機器の整備やスキルの遅れが指摘されました。私たち教育機関に所属する者からすれば、子供たちの学びを止めないために「オンライン学校」を充実させることが大きな課題となり、家庭では家族が十分に活用できるWiFi環境やタブレット端末を準備する必要性が生じました。

 また、感染者を特定して、適切な医療を素早く手配する保健所の業務、政府から国民に送られる補助金やマスクの手配が一部F A Xや手作業で行われ、皆の手元に届くのに大変な時間がかかるなどの問題もありました。実際に対応されている方々は限られた環境の中で、早急に、しかも正確に物事に対応しなければならず、誰が対応しても困難を極めたのではないかと思います。しかし、国や社会のシステムとして、その根本的な未熟さや不十分さが明らかになったと言わざるを得ません。

 これには、戦後日本が1960年代の高度成長期に経験した成功体験や社会的な価値観、それに伴う文化が大きく影響していると思います。当時の工業的成功を収めた際の考え方がSociety5.0の現代になっても、今なお語り継がれて、私たち大人の大きな価値観となっている気がします。日本の産業は国内のみで一定の利益が挙がるので、海外に目を向けたビジネス戦略が弱いのかもしれないのです。ガラケーと言われる日本の携帯電話ですが、その性能は群を抜いていたのに、グローバルな観点での開発に弱みがあったために海外では大きなブレイクにつながらなかったことがありました。最近、韓国のアイドルグループB T Sが全米ビルボードでトップに輝いたのも、最初から世界でのブレイクを狙い、戦略的にプロモートを進めたからとも分析されています。日本ではすべてことが、ある程度、国内で完結できてしまうことが影響しているのでしょうか。視野が内向きで外に向かないことがあるのかもしれません。日本では、世界で通用する言語学習への取り組みについてのその本気さが、アジアやアフリカ諸国と比べても弱い。同じくpcリテラシーやitリテラシーを育てる社会のスキルやマインドも弱いように思えます。

 これから皆さんが社会を牽引していく際には、自分の身の回りの狭い視点でなく、世界を見据えた俯瞰的な広い観点で事柄を見る。そして、事柄の問題点の実態を捉える、他者に単に同調するのでなく、様々な考えを聞いて参考にする。自らの考えを外へ発信する。他者の考えに共感して、高い目標に向けて協働する。このようなフローが本当に大切だと思います。日本社会は若い世代を中心に、様々な変化を受け入れ、これまでの常識を超えた取り組みを本気で進めることが必要だと思います。

 現在の世界情勢を見ると、グローバルという言葉は消えてしまったのではないかと思えるような状況です。しかし、現状は必ずや回復して、グローバルな活動が新たに形を変えて、さらに進化していくことは間違いありません。今は日本にいて、安全を確保しながらできることに集中する。いわば、高い跳躍へ向けての沈み込みの体勢だと思います。苦しくつらい状況ですが、来年も学校全体で力を合わせて、努力を続けていきましょう。

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