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「始業式の言葉 empathy 共感する能力」宍戸校長の【Back to Basics】

皆さんこんにちは。学校長の宍戸崇哲(ししどたかのり)です。毎月1回、校長としての私の感じたことや考えを「宍戸校長の【Back to Basics】」と題して、本校HPで発信していきます。学校や生徒のことを中心に社会の出来事なども交えて、皆さんと何かを共有できればと思います。どうぞ宜しくお願い申し上げます。今回は「始業式の言葉 empathy 共感する能力」と題してお届けいたします。

 

 

今週は「努力は必ず報われる」という言葉がニュースで何度も取り上げられました。トップアスリート池江りかこ選手が100mバタフライで東京オリンピック出場内定を決めました。彼女は20歳ですが、皆さんもご存知のように昨年2月急性白血病を発症したことを公表しました。皆さんとそう変わらない年齢です。日本社会はコロナ禍に入る直前で、その公表を驚きを持って受け止めました。その後、池江さんは厳しい闘病生活を送ったと思いますが、コロナ禍の情勢が加わり、命を守るということ、1日も早く復帰して五輪に出場するという願いと立ち向かう、想像を絶するような闘病生活だったと思います。

努力に努力を重ねて、治療を行い、練習のために発病後初めてプールに入った彼女の動画が報道され、自分のことのように嬉しく思ったことを覚えています。この出来事は同じ病気と闘う人々にどれだけ勇気を与えたか。どれだけ同じアスリートたちの心を鼓舞したか。また、小さな困難に囚われている私の心の甘えに戒めを与えてくれたか。心が震えるほどの出来事でした。そして、この事を皆さんに伝えなければならないと思いました。

 

「努力は必ず報われる」は必然ではないことが多い中で、池江さんは見事にその姿で、この言葉の正しさを体現してくれました。大きな事を成し遂げた人の言葉はひたすら重い。私たちは20歳の彼女の姿から様々な事を学ばなければなりません。ひたむきに努力すれば、道は開かれていくということを改めて心に刻み、彼女の姿から勇気を得て、辛く苦しい道を一歩一歩進んでいく覚悟を決めましょう。

 

また、別の観点から考えてみたいと思います。池江さんがどのような思いを持ち、日々の努力を重ねていたか、誰も同じ気持ちになることはできません。なぜなら、私たちは大病を抱えて五輪出場を目指す人間ではないからです。境遇が全く違うのでわからないことは当然です。しかし、彼女の身になって、彼女の思いを想像してみること、そして思いを共有すること。これはできます。これが共感するということです。シンパシー(かわいそうに思う気持ち、同情)ではなく、エンパシー(他者の立場を想像して、思いを共有する能力 共感)であるということです。

世界で起きている出来事や日本社会で日々報道されることをみていると、残念ながら人々の共感性がより弱ってきていると感じます。全てが不確かで、正解のない課題に向かう時代の中で、多様性を認めることも求められています。そんな時に最も重要なのは、共感であると思います。

皆さんは「5つの実践」を心がけていますか。今話したことが、「思いやりの実践」につながります。日々の学校生活の中で、何か出来事があったら、共感して思いを共有する。そして、協働して一つの高い目標に向かう。どうか実践してください。今まで、自分のことしか見ていなかったことから、大きな視野が広がり、見えなかった景色が見えるようになり、自分が今なにをしなければならないのかがわかってくると思います。

池江さんのインタビューによれば、アスリートの仲間たちが、彼女の思いに共感して、辛いトレーニングを支えてくれ、偉業を達成できたとの事です。まさに究極の共感と協働の形だと思います。

 最後にもう一つ。皆さんの長い人生の中で、現在のようなことはまず再度起こり得ないものでしょう。私も長く生きてきて、こんな世界は初めてです。それなら、一部を前向きに捉えて、知識をインプットする、机に向かう学びだけでなく、社会の生きた課題を探究活動にすれば、より高く深い学びになると考えます。日々報道される情報が有効か有害か、経済活動をどう再生すれば良いか、オンラインを使用した社会の仕組み作り、法律でなければ自粛はできないのか、人のモラルとは。家族の中での自らの役割を考える。小さな子供の世話をすること。新しい料理を考える。家庭内の整理整頓をする。このようなことを考えたり、行動して、学びにしてみるのはいかがでしょうか。この情勢から脱した時に広がる新しい社会の仕組み作りに自らが積極的に関わっていくのはいかがでしょうか。

本当の学びは与えられるものでなく、自らが選び、自分で進めていくものです。時間を無駄にせず、この状況下でしか感じられない「気づき」を大切にしていきましょう。

 

明日4月9日、入学式を行います。新たに中学新入生84名、高校新入生178名
を迎えます。新しい仲間たちと共感・協働して質が高く深い学びを進めていくことをお願いして私の始業式の言葉といたします。

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