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【世界宗教者平和会議(WCRP)「核兵器廃絶オンラインワークショップ」生徒登壇のご報告】

8月3日(日)に実施された世界宗教者平和会議(WCRP)「核兵器廃絶オンラインワークショップ」にて、本校1年生の波田野優さんが英語でスピーチをしました。

本校の名誉学園長庭野日敬先生の呼びかけによって始まった「世界宗教者平和会議」は、今なお戦争や紛争に苦しむ国家や地域を世界中の宗教者の立場から考える世界的なイベントであり、今回は改めて核兵器の脅威や平和への思いを考えようという趣旨でオンラインワークショップが実施されました。

その中で、各国の高校生が平和への思いを述べるパートがあり、波田野さんが登壇してくれました。

ワークショップには、海外の方も大勢参加しており、スピーチ後には沢山のお褒めのコメントをいただきました。

実際に波田野優さんが準備してスピーチした原稿を掲載しますので、ぜひご覧ください。
(以下、波田野優さんのスピーチ原稿の日本語訳です。)

みなさん、こんにちは。
  日本出身、高校1年生の波田野優です。

私は未来を担う世代のひとりとして、そして被爆者の方々から声を託された者として、ここに立っています。
  今日、私は一枚の白い布を思い描きながら、みなさんに話をしたいと思います。

この夏、私はベトナムで行われたサマーキャンプに参加しました。
  約15カ国から、それぞれの国を背負うように、一人ひとりの仲間たちが集まりました。
  私たちは違う色を持ち寄り、一枚の白い布に模様を描くように、友情や信頼を築いていきました。

しかし、その布に黒い染みが落ちました。
  ある時、私が親しくしていた友人が差別を受け、また別の友人が差別をしてしまったのです。
  その瞬間、せっかく描きはじめた模様は壊れてしまったかのように見えました。

けれど、私たちは布を捨てませんでした。
  円になり、互いの気持ちを涙ながらに語り合い、耳を傾けました。
  その時間は決して簡単ではなかったけれど、黒い染みのまわりに新たな模様を描くことができたのです。

キャンプでは、布に一人ひとりが色を重ねていくワークショップをしました。
  どの色も違うけれど、ひとつの布に重ね合わせれば、美しい模様になる。
  私はその布を見ながら思いました。
  差別も対立も、話し合いと勇気によって、新しい模様に変えられるのだと。

そして、平和とは、染みのない完璧な布ではなく、汚れてもなお描き続ける勇気だということに。
  布は、まさに平和の縮図でした。

けれど、布の模様は私たちの世代だけのものではありません。

私は広島平和記念資料館を訪れました。
  どうしても行かなくてはならない、と心が突き動かされたからです。
  そこで見たのは、ただの展示ではありません。
  焼け焦げた衣服、小さな三輪車、手を伸ばしたままの影。
  それは「誰かの父」であり、「誰かの母」であり、「誰かの兄弟」であり、「誰かの子ども」であり、「誰かの大切な友達」であった証でした。
  私は展示の前で立ち尽くしてしまいました。
  そこにあったのは、数字ではなく、人間の人生そのものでした。核兵器が奪うのは数字ではありません。
  苦しむ人にも、私たちと同じように、必ず愛する家族や友人がいます。
  それを忘れてはならないのです。

私は広島平和記念資料館を訪れたあと、被爆者の波田スエ子さんのお話しを動画で聞きました。

スエ子さんは8歳の時、爆心地からわずか800メートルの自宅で被爆しました。

その朝、両親は仕事に出かけ、姉たちと朝食の準備をしている時に原爆が落とされたのです。
  一瞬で家は崩れ、火の手が迫る中、姉たちを助けることはできませんでした。

彼女はこう語ります。
    「両親が必ず迎えに来てくれると信じ、毎日のように電停で待ち続けた」と。

しかし80年経った今も、ご両親の遺骨は見つかっていません。
  それでも彼女は言います。
    「伝える意味があって私はここにいる」と。

彼女の人生も、一枚の布に例えるなら、幾度も黒い染みを落とされ続けた布でした。
  それでも、彼女は描き続けた。
  家族を想い、平和を願い、言葉を重ねてきた。

もう被爆者の平均年齢は85歳を超え、直接声を聞ける時間は限られています。
  だからこそ、スエ子さんたちが描き続けてきた布の模様を、私たち若い世代が受け継がなければならないのです。

考えてください。
  原爆投下から80年。
  それでも核兵器は、この地球上に存在し続けています。

核兵器が使われた時、失われるのは街だけではありません。
  瓦礫に埋もれるのは「誰かの夢」であり、「誰かの未来」です。

被爆直後、広島の街では人々が皮膚を垂らしながら川に飛び込み、助けを求める声があちこちで響き渡りました。
  焼けただれた体で水を求めながら、そのまま川岸で息絶えていった人。
  母親を呼び続ける子どもの声。
  その傍らに、もう動かない母の手。

核兵器は、目に見えぬ放射線を残し、助かったと思われた人々を数日後、数週間後に苦しみと共に死へと追いやります。
  そして、その影響は世代を超えて続きます。
  白血病やがん、不妊や先天的障害――
  命をつないだはずの子どもや孫までが苦しむのです。

戦争の終結という名の下に投下されたその爆弾が、
  数十年、数世代にわたり、苦しみを継続させる。
  これほど非人道的な兵器が、他にあるでしょうか。

ーーーーー

だから私は強く訴えたいのです。
  核兵器は「ただの兵器」ではありません。
  人間の尊厳そのものを奪い去る存在なのです。

そして今、世界では耐えずに対立が存在し、核兵器の近代化が進んでいます。
  一度の誤った判断で、数百万の命が消え去る危険が現実にあるのです。
  核兵器廃絶は「理想」ではなく、「今すぐ取り組むべき課題」なのです。

もう一度、あの白い布を思い描いてください。
  それは、世界中の人々の未来を映す布です。
  黒い染みは、確かにあります。

けれど忘れないでください。
  核兵器がもたらすその染みは、自然の現象ではありません。
  地震が突然大地を揺らすように起きるわけでも、
  台風が避けられない力で街を襲うように訪れるものでもありません。
  

核兵器は、人間が自らの手で作り、人間が自らの決断で投下するものです。
  そしてその犠牲になるのは、いつも子どもや女性、お年寄り、声をあげることのできない人々です。

自然災害を私たちは止められないかもしれません。
  しかし核兵器だけは違う。
  これは私たち人間が選択し、そしてやめることのできる行為なのです。

だからこそ、私たちは布を描き続けなければなりません。

ここに集まっている人々を見てください。
  今日はここに多くの国から人が集まりました。

この出会いは自然現象ではありません。
  雨が降るように偶然起こったわけでも、風が吹くように決まっていたわけでもない。
  人間の意志でここに集まったのです。

WCRPは、宗教や国境を超えて、対話と協力を通じて平和を築くことを理念としています。
  私たちがこうして一堂に会していること自体が、「平和はまだ生きている」という証なのです。
  ここで学んだことを、それぞれの国に持ち帰り、布に新しい模様を描き足すこと。
  それが、この会の大きな意義だと私は考えています。


私は1人の若者として、布を描き続けたい。
  被爆者から託された模様を守り、新しい色を重ねたい。

そして皆さんにもお願いしたい。
  どうか言葉ではなく、行動でその布に希望を描いてください。

私たちは布を描き続けなければならないのです。
  一人ではなく、手を取り合って。

未来の子どもたちに、どんな布を手渡しますか。

どうか、その答えを行動で示してください。


  人間の手で汚された布を、人間の手で塗り替えることができるのは、私たち自身なのです。

 ありがとうございました。