部活動速報 Club Newsletter

第7回東北吹奏楽キャラバンの旅行記(2)

3月24~26日、吹奏楽部は福島県浜通りを訪れ、東日本大震災から8年経った被災地を巡りました。

旅行記後編は、浪江町での出会いと学びをお送りします。

 

6. 浪江町内フィールド学習

浪江町は2017年3月に沿岸部と市中心部の避難指示が解除され、今では約900名の住民が居住しています。私たちはフィールドパートナーの菅野孝明さんの案内で、津波により壊滅的な被害を受けた請戸地区を見て回りました。震災当時の姿を残す請戸小学校。特徴的な建築で町民の自慢だった学校に、あの日大津波が襲いかかりました。しかし、事前に避難経路の確認をしていたおかげで、1年生から6年生まで全員が迅速に避難して助かったとのことです。

請戸地区を見下ろす小高い大平山にも足を運びました。あの日多くの人が避難しようと道は渋滞となり、津波の犠牲になった方も大勢いました。今では慰霊碑と共同霊園が立てられている大平山公園で、穏やかな春の青空の下、私たちは鎮魂の合唱を捧げました。

 

7. ocafe・浪江まち物語つたえ隊

日が暮れ、私たちは浪江町内で真っ先に再開したカフェ「ocafe」を訪れました。お店を開いた岡さんたちは、地域に伝わる民話・昔話を蒐集する活動に加え、震災と原発事故の実話をもとにした紙芝居を製作して伝える取り組みを続けています。岡さんたちは私たちのために紙芝居を2作披露してくださいました。避難指示のために行方不明者の捜索もできなかった消防団員の無念。大事に大事に育ててきた牛を見捨てざるをえなかった畜産家の苦悩。今日見た浪江町の光景と重なり、どちらの紙芝居も強く胸に迫ってきました。「もぉー、もぉーー」という牛の哀切な鳴き声が、今も脳裏に響きます。生徒達は、この地の生きとし生けるもの皆が味わった喪失の深さに思いを馳せたことでしょう。皆さんも機会あればocafeを訪れてみてください。

夜は浪江町役場敷地内の仮設商店街「まち・なみ・まるしぇ」にある海鮮和食処くろさかさんで、新鮮な海鮮丼をいただきました。そして、仮設住宅を移設して宿泊ロッジに改造した宿泊施設「いこいの村なみえ」に泊まりました。仮設住宅の集会所も復元されています。前日に引き続き、この日も夜遅くまで皆で振り返りを行いました。

 

8. 避難所運営ワークショップ

旅の最終日、福島大学うつくしまふくしま未来支援センター特任教授の天野和彦先生の講義とワークショップを受講しました。天野先生は、震災後に避難所となった郡山市内の大型多目的ホール「ビッグパレットふくしま」で、避難所運営の責任者を務められました。避難所の使命「いのちを守る」を実現するため、上から管理するのではなく、交流と自治の視点から人と人がつながるしくみを構築してきました。ワークショップでは「避難所外の半壊の自宅でやむなく寝たきりの家族を介護しながら暮らしている住民が、避難所に支援物資を分けてもらえないか尋ねてきた。避難所外の人に支援物資を分けることはルール上、禁じられている。あなたが避難所運営者ならどうするか?」という問いをめぐって、個人とグループで段階的に考えて議論し、発表しました。こうした避難所運営のケーススタディを通して、災害を人権の視点で捉え直し、想像力を持つことの大切さを学びました。こうした学びは、震災という非常時だけでなく、普段の部活動や学校生活においても通底することであり、大切な気づきを得るワークショップとなりました。

 

9. 浪江町ミニコンサート

部員達にとって緊張の瞬間が近づいてきました。午後1時、浪江町地域スポーツセンターのサブアリーナにて、佼成女子吹奏楽部ミニコンサートの開催です。はたしてこんな平日の昼間に、東京から来た高校吹奏楽部の演奏会にお客さんが来てくれるのか、ドキドキしてスタンバイしました。やがて、一人また一人と会場にお客さんが姿を現し、お蔭様で私たちの予想を超える27名もの住民の方々が足を運んでくださいました。

部員達は心なしか硬い表情で演奏を始めました。しかし、皆さんが笑顔で聞いてくださる様子に、部員達が逆に勇気付けられたようで、徐々に一体感のある音楽の空間となりました。部員達は、今日まで福島浜通りの各地で見て聞いて学んだ全てのことから、ここにお越しの皆さん一人一人に物語があることに思いを致し、心を込めて演奏できたのではないかと思います。演奏会開催にあたってチラシを配ってくださった菅野さんはじめ浪江の皆さんへの感謝の思いも尽きません。この浪江の町で一緒に吹奏楽の響きを共有することができ、生涯忘れられない演奏会になりました。どうもありがとうございました。

 

最後に、菅野さんと一緒に旅の振り返りを行い、部員全員が自らの思いを発表しました。帰る時間が迫るなか、一人一人が思いを込めて、自分の言葉で語る姿に、3日間の成長の軌跡が現れていました。大人達も感無量でした。

 

今回の旅は、福島県観光交流課と福島県観光物産交流協会の皆さんがSGHである本校を訪問してくださり、スタディーツアーのプログラムをご紹介くださったことがきっかけとなり実現しました。そして、フィールドパートナーの菅野さん、観光物産交流協会の庄條さん、立正佼成会平教会の皆さんはじめ、多くの人々が陰ながら準備してくださり、温かく出迎えてくださったことにより、こんなにも中身の濃い充実した旅となりました。お世話になった全ての方々に、深く御礼申し上げます。

初日にお会いした広野町のNPO法人ハッピーロードネットの西本さんは、「今回の旅で見たこと、その良いことも悪いことも、ぜひ周りの人に話してほしい。話さないから風評が広がるのだから。話すことが心のボランティアになるのだよ」とおっしゃっていました。きっと、部員達は今回の旅で得たことを胸に、自分の言葉や自分たちの音楽で大切な何かを表現できるよう、これからも成長を重ねていくことでしょう。

 

部活動一覧へ